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最初に結果だけ言うと、惨敗だった。一言二言しかわたしは言い返すことができなかった。何も信じてもらえなかった。
「香織、まだそんなこと言うとるんか? 美里ちゃんまで巻き込んで。アホなんちゃうか」
香織の母親はそう言うと、彼女を言葉で攻撃し始めた。彼女の表情は、一気に崩れ落ちていった。わたしは呆然と立ちつくした。
何もできない、役立たず、ただのおせっかい、本当にだめな自分――。自分の目の前で、隣で、こころをずたぼろにされていく、大切な親友。彼女の顔色は、青ざめていた。
わたしが口にできたのは、このひとことだけだった。
「か、香織ちゃんの体のあざ、見てください…」
しかし、香織の母親はぴしゃりと言った。
「うちのことに、もう入ってこやんといてくれへんか?」
大人――わかったふりをして、全くわかっていない。無知のかたまり。わかろうともしない。その上、何も教えてくれない。腐っている、腐っている、腐っている、腐っている、腐っている…でも、いつか自分もそうなってしまうのだ。生きている限り、同じ大人になってしまう。
わたしは香織の家から追い出され、彼女はその後も母親に傷つけられていった。自分という形を取り戻せなくなるくらいに。
それ以来、香織とは彼女の家のことは深く話させなくなった。電話もぱったりこなくなった。彼女は、家のことを口にする時はあやふやにするようになった。わたしもそれに合わせるしかなかった。何も言えなかった。
そして――ある雨の日の深夜、父親から虐待を受けた。その後、香織は自分の部屋のドアノブで、首を吊って逝ってしまった。
翌朝、冷たくなった香織は帰宅してきた、母親に発見された。彼女の父親は検死後に逮捕され、母親は予想外の出来事に泣き崩れていた。葬式の時、母親はずっと泣きわめいていた。
「ごめんねえ…ごめんねえ…ごめんねえ…香織、ごめんねえ…!」
わたしはひんやりとした香織に、何も言うことができなかった。彼女の棺の前から離れることができなかった。彼女の死に顔は、安らかでとても幸せそうに見えた――。
その後、香織の母親はスナックを休業し、アルコールに溺れるようになったという。
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