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学校が休みの土曜日。あたしは駅から数分の場所にある、アクセサリーショップに入った。
大きいとは言えない店内に、たくさんの女の子達で賑わっているそこは、少し前までは、そこそこの人が出入りしていたものの、こんなに溢れかえるほどではなかった。
カリスマモデルと呼ばれる人が着けていた指輪は、ここで購入されたものだと雑誌に載ってたせいで、瞬く間に大人気のお店になってしまったのだ。
以前から通うあたしからすれば大迷惑な話なのだが、こんな時に、よりによって人込みが嫌いな彼氏とその中にいた。
可愛らしい雰囲気には似つかわしくもない、金髪ウルフが目立っている。
「似合うか?」
「なんか違うような……」
「じゃあこれだろ」
「あ、いいね。似合いそう」
「やっぱな! よし! 金払ってくるから待ってろ」
大きな体でスルスルと、器用に人波を通り抜ける背中を後目に、あたしは出口へと向かった。店内は蒸し暑く、空気も悪い為、気分がすぐれなかったのだ。
やっとの思いで外にたどり着いてみれば、ひんやりと冷たい空気が気持ちよくて、思わず深呼吸をした。
ガラスの壁に寄りかかり、さっきの卓也を思い出してみる。
人込みが嫌いな彼にしては珍しく苛立ちを見せることもせず、その表情は緩んでいた。
選んだプレゼントを渡す相手が、喜ぶ姿を想像でもしていたんだろうか。普段あまり笑わない卓也があんなになるなんて、うらやましい限りだ。
なんてことをぼんやりと考えていたら、ポケットの中でマナーモードにしていた携帯が、震えて存在を訴えかけてきた。
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