大きなどんぐりの木の下での巻

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ぼーっと、サッカー部の練習を眺めていたら、隣でぱたんと本を閉じる音が聞こえた。 読み終わったんだなと思って、白鳥のほうを見ると、ふーっと息を吐きながら目をつぶっていた。どうやら、考え事をしているみたいだ。 考え事をしているときに邪魔をされたくないだろうから、まだぼーっとしていることにする。 告白されたらどうしよう、初デートはどうしよう、クリスマスは一緒に過ごしたいな、なんて考えで頭の中はたちまちピンク色になってしまった。 とんとんと右肩を叩かれたので、はっとなって右を向くと、白鳥がすまなそうな顔をしてこちらを見ていた。 「ごめんなさい。呼び出したのに、ずっと本読んでて。私、一度読み出すと止まらなくなっちゃうの」 下を向き、悲しそうに白鳥は言った。 うつむいている白鳥のまつげが長くて、どきりとした。 「いいよいいよ、それよりその太宰治の人間失格ってどんな話?」 「うーん。どんな話って聞かれても、難しいなあ。簡単に言えば暗い話かな」 「そっか、今度読んでみるよ」 「うん、読んでみて」 白鳥は、本を水色の図書袋にいれて、すたっと立ち上がった。
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