冷酷な貴公子

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王哉と渡は屋上に来ていた。普段屋上は立ち入り禁止なのだが、彼らは昼休みにいつもここで昼食を食べている。 王哉は騒がしいのが嫌いだから、という事で探した結果、屋上がいいとなったのであった。 王哉はナップザックから弁当を取り出した。二段の弁当箱で上にはおかず、下には白い米が入っていた。 渡は売店で買ったパンと紙パックのジュースを持っている。 渡は王哉の弁当箱の中を覗き込んだ。 「おっ、今日も手作りか。この肉一つ貰っていいか?」 長い前髪に隠れている、渡の黒縁メガネが光った。 「好きにしろ」 「イエィ!いただきます!」 渡は、王哉の弁当箱からローストチキンを一つつまんで、着けていたマスクを外して口に放り込んだ。 「ウマッッ!!!!王哉、また腕を上げたな!」 「どうも」 王哉は弁当を食べ始めた。しばらく沈黙が続いた後、彼は渡に言った。 「渡、いつもありがとな」 「王哉」 渡は微笑みながら、名前を呼んだ。 「今更何だよ?気にするな」 「いや、お前もいつかは俺の前から消えるのかと……」 「あのな、俺がいなくなったらお前には誰もいないだろ?大丈夫だって!俺は不死身だ!何があっても、王哉が笑顔で接する事が出来る人が見つかるまで、お前に取り憑いてやるぜ!」 渡はそう言って、親指を立ててきた。 「そっか…」 渡の言葉に安堵した王哉は、弁当の玉子焼きを箸でつまんで食べた。
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