ー序章ー

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以前私と会った男が強盗殺人の容疑で逮捕された際、こう言っていた。 「魔がさした」と。 殺人であれ窃盗であれ、罪を犯した人間の多くがこの言葉を口にする。 自分でしたことを、まるで他の原理に強制されたかのような言い分である。 自分の行動にかくも責任が持てないとは。 私を呼んでおきながら「出ていってくれ」と言うなり目の前で扉をバタンと閉める人間もいれば、私を歓迎し、種々の悪行に手を染める者もいる。また、一度は扉を閉めた者が、後になって私を招き入れることもあるのだから不思議なものだ。 今、私は横山邦夫という男に呼ばれている。深い悲しみとやり場のない怒りに支配された男だ。 横山のもとを訪れた私は、玄関のチャイムを鳴らす。
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