心を残した場所

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―ココハ ドコが? ―アブナイ 何が? 「今度は何を伝えたいの?」 温泉から上がり、入り口でまだ入浴中の女を待ちながら、雪の声を思い出す この場所が危険? 彼女とのせっかくの旅行だというのに、またこの声に悩まされなければいけないの? 「…駄目だ こんな事、桜さんには言えないよ」 この旅行は二人の『初めて』を刻む、思い出を作る為のもの 楽しいものでなければいけない 「もし、あの声の通りなら…」 僕がその『アブナイ』から彼女を守るんだ 「お待たせー!」 赤い暖簾から湯上がりに頬を赤くした彼女が、手を振りながら出てきた 笑顔を作らなきゃ… 何事も無かったように、温泉を楽しんだという笑顔を ―作った笑顔が引きつった 彼女の振る手に黒いウサギさんスリッパが握られているからだ 「え?あの…」 近づいて来る彼女は笑顔だが、そのスリッパは凶器に見えます そして彼女は近づきざまに ―スパーン! 「うべっ!」 見事な打ち下ろしだ 「いくら初めてでも騒ぎ過ぎだよ?」 どうやら僕の声は隣まで響いていたみたいだ 「なんでスリッパが…」 館内での移動用のスリッパをちゃんと履いているのに… 「念のため♪」 それが今?
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