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廊下の曲がり角から姿を現したのは小柄な女性
無理して大人用の浴衣を着ているのか、裾を引き摺りながら歩いて来る
短めの黒い髪で、前髪を一直線に切り揃えているその容姿に、僕は思わず彼女の後ろに身を隠した
「あれ?雫じゃない」
彼女がシュウ君のように女性を指差すとその名を口にした
「げっ…桜…」
今井雫は彼女を見てあからさまに嫌そうな表情をした
彼女の従妹であり巫女の雫
僕はちょっとだけこの女性が苦手なんだ
「あれー?お姉ちゃん達って知り合いなの?」
シュウ君が一人、無邪気な笑顔で二人を交互に見ている
「何で雫がここにいるのよ
それに『お姉ちゃん』って、雫は一人っ子でしょ?」
彼女の質問に雫が眉間にシワを寄せる
「…この子は孤児なのよ
最近ウチの寺で引き取ったんだけど、暇だ暇だとうるさいから母さんが連れて行けって…
桜こそ何しに来てるのよ
私の六花くんを連れて温泉だなんて」
雫が身体を曲げ、彼女の後ろに隠れる僕を覗き込む
「『私の』って何よ!
私のよ!わ・た・し・の!」
「違うよ!お兄ちゃんは僕と遊ぶんだ!」
「いや…僕はモノじゃないんだけど…」
シュウ君まで会話に混ざり、状況は良く分からない方向へ向かってしまった
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