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歩くダウンジャケットが新雪を踏み鳴らす
黒のニット帽は目を覆い隠すほど大きく、赤い長靴は太ももまで達している
その下にはワンピースを着た男
「外を歩いていいのかな…」
色んな意味でだ
「大丈夫だって!
すぐに素敵な格好に変身させてあげるから」
僕の手を握っている彼女が嬉しそうに言う
僕みたいな小さい男とデートして何が楽しいのだろうか
テレビでも本でも、綺麗な人と隣り合って歩くのは、それに釣り合う人に決まっているのに
彼女は綺麗だ
短い時間で見たテレビの人や、ベランダから見た通り行く人達と比べても
だから僕は少し背伸びがしたいのかもしれない
だから…
「ハードボイル系で…」
「却下」
少し憧れた
革のコートにサングラス
「ロックテイストな…」
「駄目」
ああ
きっと彼女の色に染められる
『ワンピースでは無いもの』
今、望める事はそれくらいのようだ
「『コスプレ』というのは嫌だな…」
最近では珍しい青空を見上げ、白い息と一緒に漏れた呟き
―――チッ
彼女の口からは確かに
舌打ちが漏れた
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