触れる世界

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その声はそのまま街の音に紛れ、そして聞こえなくなった ――誰が、何のために… 僕は多分、何かを思い出さないといけない あの声が、体の底に沈む何かを汲み上げようとしている 「ほら、行くよ?」 繋いだ手を大袈裟に振り僕を前へと促す 「あ、はい…」 楽しかった一時に、不安と疑問を一握りずつ持ちながら帰り道を行く 大通りからアパートへ向かう細道に入り、極端に減る人並みに安堵した 「どうだった?初めてのデート 疲れさせただけだったかなぁ?」 『声』の事で多分表情が堅くなっていたのかもしれない 気を使うような感じで聞いてくる彼女 「凄く、楽しかったです 色んなものに出会えて、色んな事に触れて、胸が一杯になりました」 掛け値の無い本音だった 得るものが多くて言い表せない程の充実が、今日1日に詰め込まれたようで嬉しかった 「良かった、楽しんでもらえて 私も楽しかったよ!六花とのデート」 あれをデートと呼べるのかは分からないけど、彼女が笑ってくれるならそれで良かった ―そんなに喜んでくれるなら 「そんなに元気なら」 ―これからも 「帰ってから」 ―一緒にいられる 「夕飯作れるよね?」 ―かなぁ?
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