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「六花!おいで!」
両手を広げる彼女に僕の足は動かない
―だって僕は……
ここに居てはいけない存在かもしれない
人じゃないのかもしれない
そう考えると体の震えが止まらないんだよ
座ったままの僕に彼女はいつもの優しい笑みで
「大丈夫だから…
おいで?怖くないから…」
彼女の声はどうしてこんなに染み込んでくるんだろう
気づけば彼女の所まで歩いていた
―ぎゅ
「ほらね?大丈夫…
こんなに近くにいるんだよ
なーんにも不安がる事なんて無いだから、ね?」
素肌の温もりが頬に伝わる
風呂上がりの石鹸の匂いが、今まで過ごしてきた日常を思い出させてくれる
いつもお風呂あがりに抱きついてくる彼女
(ほーら、いい匂いだよ)
少しくすぐったくて
だけど僕のための小さな時間
安心感が体を満たし、体重を彼女にかけてもたれかかる
子供のようにしがみつく僕の背中をトントンと優しく叩き、そして表情を強ばらせたままの雫を睨む
「どういう事?」
ただそれだけの言葉が、とても重く響いた
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