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「呪いの事は本人には言ってないけどね…
ただでさえ異常な両親の死に、桜の精神は限界まで疲弊してしまってたから」
悲しそうに瞳を揺らす雫
しかし僕には彼女の悲しみや苦しみを感じる事が出来ない
それがとても辛い
「桜の両親はその死にかたもあって密葬だったんだけど、人の口に戸は立たないってね…
近所から変な目で見られるようになって、桜は家を手放してまでこんなアパートに住むようになったのよ」
部屋を見渡し片手を上げる雫
「あんなに明るい桜さんにそんな時期があったんですね…」
僕の知る彼女は笑顔の絶えない、陽気でちょっと怖いだけの人だ
まだ一緒に住んで数日だけの短い関係だけどそれが僕の全てで、僕が知る彼女の全て
「そんな時期が…
六花くんが現れるまでの桜よ」
そう言ってジュースに口を付けたまま僕を指差す
「僕が……ですか?」
あの日、初めて彼女と出会った日を思い出す
僕を見つめる真っ直ぐな目と、幾つかの色が現れたあの日
あの時の彼女も苦しんでいたのだろうか
――『来る?』
彼女が差し出した最初の手
「桜はきっと」
彼女は多分
「六花くん、あなたに」
僕に手を伸ばしたのは
「助けて欲しかったのよ」
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