不安定

13/16

37人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
「呪いの事は本人には言ってないけどね… ただでさえ異常な両親の死に、桜の精神は限界まで疲弊してしまってたから」 悲しそうに瞳を揺らす雫 しかし僕には彼女の悲しみや苦しみを感じる事が出来ない それがとても辛い 「桜の両親はその死にかたもあって密葬だったんだけど、人の口に戸は立たないってね… 近所から変な目で見られるようになって、桜は家を手放してまでこんなアパートに住むようになったのよ」 部屋を見渡し片手を上げる雫 「あんなに明るい桜さんにそんな時期があったんですね…」 僕の知る彼女は笑顔の絶えない、陽気でちょっと怖いだけの人だ まだ一緒に住んで数日だけの短い関係だけどそれが僕の全てで、僕が知る彼女の全て 「そんな時期が… 六花くんが現れるまでの桜よ」 そう言ってジュースに口を付けたまま僕を指差す 「僕が……ですか?」 あの日、初めて彼女と出会った日を思い出す 僕を見つめる真っ直ぐな目と、幾つかの色が現れたあの日 あの時の彼女も苦しんでいたのだろうか ――『来る?』 彼女が差し出した最初の手 「桜はきっと」 彼女は多分 「六花くん、あなたに」 僕に手を伸ばしたのは 「助けて欲しかったのよ」
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加