37人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
―カエリナサイ
いつもの囁きではなく
はっきりとした音としてそれは聞こえてきた
―カエリナサイ
空耳や幻聴ではない
これは僕に向けられた言葉
帰る?………何処へ?
雪の吹き荒れる中
無理矢理目を開けて、声のする方へと目を配る
しかし開いた瞼の先の視界はただ白く、下からも舞い上がる雪に再び目を閉じる事となる
―カエリナサイ
3度目の声が聞こえた途端
風が止み、そして雪も止んだ
風が無くなったのを肌で感じ、ゆっくりと目を開ける
風が吹く前と同じ風景がそこにあるだけで、声はもう聞こえてこない
「帰りなさい…って
今更何処へ帰るっていうの?」
せめて僕の記憶を返して
やっと彼女といられる理由を見つけたのに、何で帰らなければいけないのか…
「僕は彼女の傍にいる
僕は……帰らないよ」
まだ解らない事だらけで、何が正解で誰が正しいかなんて知らないけど
僕は僕の為に此処にいる
彼女と僕はそれを望んだんだ
最初のコメントを投稿しよう!