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吹雪の中で聴こえた声を拒絶するように…いや、逃げるようにして部屋に戻り戸を閉めた
まだ耳に残るあの声が僕の心にジワリジワリと染み込んで、波紋のように広がってゆく
あの声は僕を知ってる
僕が何者か、何処から来たのか
そして此処に居てはいけないという理由も…
「…駄目だ、考えちゃ…
………夕飯を作ろう」
米を研ぎ食材を刻み出汁を作る
ただ一心不乱に料理に没頭した
鍋料理とは思いの外手軽に出来てしまうんだな
30分程で下準備が終わり、時計を見ればまだ2時を回ったばかり
「早く帰ってこないかな…」
今一人でいるのは心細くて
ちょっとだけ苦しい
どうしても落ち着かない気持が煩わしく、僕はフラリと彼女の部屋に向かった
―ガチャ
ドアを開けると感じる彼女の匂いが今はとても恋しい
そのままベッドへと進み、その上に倒れ込む
「…桜さんの匂い」
布団に潜り込んで小さく丸まる
彼女の香りに包まれて不安や寂しさが紛れていく
「……温かいなぁ」
猫はコタツで丸くなる
最近覚えた歌を思い出しながら
いつの間にか眠りに落ちていた
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