僕と彼女と日常と

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――――――― 「ご飯、作らなきゃ」 陽が落ち始める夕暮れ刻 水色のエプロンに身を包み、土鍋に水を溜める 今夜は『おでん』 発行年月日のわりに新品のような料理本を片手に、今日の夕飯のメニューを決める 慣れない手つきで大根を桂剥きしながら、初めて食べた彼女の料理を思い出す ハンバーグと言って出された ケシ炭 自分は違う星の生物かと思った ――でも そのハンバーグなるものを食べて吐き出した彼女を見て、同じ味覚なんだと少しホっとした 数日前の出来事に苦笑いしながら、ガスコンロに火をつける 昆布で出汁をとり、下準備を済ませると再びベランダに向かった ――また聞こえる ベランダに立ち、細く降る雪に混じって囁くような声が聞こえてくる ――僕を呼んでるの? はっきりとは聞き取れない でもそれは 僕に向けられてるように思えた 「僕は………誰?」 答えがそこにある気がして 夕暮れに舞う粉雪に問いかけた
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