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囁きは言葉を伝える事無く、風に紛れやがて消えた
――僕の声は届かない
悲しいような悔しいような気持のまま、キッチンに戻り料理を再開する
食材を煮込み、炊飯器のスイッチを入れ、あらかた作業を終えるとリビングに戻り一息つく
普段は彼女が独占している1人がけのソファーに腰を下ろし、リビング入り口の側に置かれた棚に目をやる
彼女と家族の写真
今よりとても小さい彼女と
その横で優しく微笑む男性と女性が『親』というものらしい
「親……僕を生んだ人…」
何で僕は知らないの?
何も思い出せない自分がもどかしく、そして苛立たしい
自分の事も、名前も
親と呼ぶ存在すらも
僕の中には色を成していないのだから
「でもいいのかな…
失う事もないんだから」
今より小さい彼女と
その横に立つ男性と女性
「もう……いないのか…」
彼女が初めて見せた悲しみの顔
理由は教えてくれなかったけど、『親』を失う事はとても悲しく、辛いものだと知った
もう昔の事と笑った彼女
あんな笑顔は見たくないと
そう思った
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