心を残した場所

12/38
前へ
/111ページ
次へ
「美味しい『ぱふぇ』って、桜さんの家の近くなんですね」 僕が口にできるのはこれが精一杯だった 本当はもっと違うことが聞きたかったけど、それを声にする勇気が無かった 「うん、そうなんだけど… 実は今日泊まる場所を提供してくれたのって親戚の叔父さんで、その叔父さん旅館を経営しているの たまには顔見せに来い…って」 ―シンセキ?オジサン? 僕の知らない単語が出てきた それを察した彼女が直ぐに付け加える 「お母さんのお姉さんの旦那さん…って分かりづらいかな? 優しい人で、とても良くしてくれたの…まぁ、お世話になった人ね」 彼女の表情が柔らかくなる それだけでその人が彼女にとって大切な存在何だと理解した 「安心しました」 彼女は両親を失ったけど、彼女を思う人がまだ居る 雫もその一人だろう 「そう?なら良かった」 僕の言葉をどう解釈したのか分からないけど、彼女は嬉しそうに笑った 「じゃあ、そろそろお弁当食べよっか?」 ――え? 頬が引きつるのを感じた 「…桜さん……が?」 ケシ炭ハンバーグが脳裏をよぎる 「心配しないで? ちゃんと車内で買うから♪」 あ、電車でお弁当を売ってるんだ… 「――でも 今の9ポイントだからね」 表情を変えず声の温度だけが数度下がる ―しまった せめて今日は ポイント4倍デーではありませんように…
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加