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電車に乗っていたのはどれくらいだろうか
お弁当を食べ、心地よい眠気が訪れた頃に彼女が「次で降りるよ」と伝えてきた
大きな《トランク》というタイヤの付いた箱をガラガラと引きずる彼女に着いて電車を降りる
そこは来るとき駅とは違い人気も少なく、小さくてちょっと淋しい感じがした
「ふふ、何にも無いでしょ?」
周りをキョロキョロと見回す僕が面白かったのか、彼女は目を細める
「はい、真っ白です」
電車が去った後に目に映ったのは、太陽の光が反射する銀世界
―僕と同じ色
ちょっと怖くて、落ち着く色
「…でも、嫌いじゃないです」
一瞬強く吹いた風が降り積もった雪を走らせる
風向きに沿って駆け抜けるように
「行くよ、六花
お迎えが来てるはずだから」
彼女も僕と同じ景色を見ていた
でも彼女は何だかそれよりも遠くを見ているように見え
「はーい」
そして何も言わなかった
(言いたく…ないのかな…)
だったら待とう
そして頼られるくらい強くならなければ駄目なんだ
彼女の後ろ姿を追いかけ、そんな思いを胸に押し込んだ
改札を通り駅を出ると、男性が一人立っている
「倉田さん、ご無沙汰してます」
彼女がその男性にお辞儀をする
どうやらこの人が『オジサン』という人らしい
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