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オバサンは倉田さんの奥さんで、彼女のお母さんの姉だと紹介された
名前は静江(シズエ)さん
女将でもある静江さんに案内され、旅館の中ヘと入る
真っ赤な生地に花の模様をあしらったカーペットと、室内にある池に目移りしながら僕は着いていく
見るもの全てが新しい
「桜ちゃんの彼氏、随分と興味があるみたいね?」
静江さんがキョロキョロと落ち着かない僕を見て彼女に言う
「こういうトコは子供みたいなんですよねぇ」
彼女の何気ない言葉に、静江さんの目は『いや、子供でしょ』と言わんばかりだ
ちらほらと他の客の姿も見え、家族で楽しそうにしている光景も僕には経験の無いもので、何とも言えない気持が去来した
『親』と『子』……か
僕にはその記憶が無く
彼女はそれを失った
そして今
彼女はその場所に戻って来た
どんな気持ちなんだろう?
聞けない
僕はただ待つ事しかできないのだから…
「ここ、桜ちゃん達のお部屋だから
大浴場の場所とか分かるわね?それとも久しぶり過ぎて忘れちゃったかしら?」
部屋の前で鍵を渡され、静江さんが彼女に確認する
「あ、大丈夫です
ちゃんと憶えてますから」
そう言って鍵を開けて部屋に入る
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