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「じゃあ、夕飯になったらまた来るから、温泉でも入ってのんびりしてね」
静江さんそう言って部屋を出て言った
倉田さんの言っていた
『積もる話し』とやらは、どうやら今はしないようだ
「ほら見て、町が見えるよ」
窓際の椅子に座った彼女が僕を呼ぶ
窓際は大きく、二階であるこの部屋からは町並みと遠くの山が良く見えた
「ここが桜さんの生まれた場所…」
旅館が並ぶ細い道の奥に民家が見える
山も建物も雪で白く、雪掻きをする人が眼下で動いていた
「うん…私はここから逃げた…
だからかな、まだちょっと痛いよ」
彼女の瞳が悲しみに揺れる
眉間に薄くシワを寄せ、唇をキツく結んだ彼女
「痛い……ですか?
頭痛とかそんな感じですか?」
彼女の表情が辛そうに見え、そっと頭に手を置く
「ふふ、優しいなー六花は
でもね?痛いのはこっちなの」
彼女は頭に乗せた僕の手を掴み、そのまま胸へと…
―ぷにょ
「……あのー、これは何の…」
柔らかな感触が手の平に広がる
「胸がね……痛いんだ」
彼女は俯き、静かに呟いた
両手を僕の手に添え、その手にギュッと力が込められる
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