409人が本棚に入れています
本棚に追加
あの少年と出会ってから数ヶ月。
また、春が来た。
書物を読んでいた帰蝶の元に、紫色の蝶が来る。
「また、帰ってきたのね」
帰蝶は蝶の頭をつんと突つく。
この蝶は、毎年春になると帰って来るのだ。
その時、ガラッと戸が開いた。
「帰蝶」
「父上。どうなさいましたの?」
書物から目を離さずに言う。
部屋の隅には、あの毛皮が掛けてあった。
「嫁に行く気はないか?」
聞きあきた言葉だった。
「またその話……?」
「さっき、お前の結婚が決まった」
帰蝶は書物を落とした。
「決まっ…た……?」
「相手は大名の息子でな。断るにも断るれなかった」
「なんで!?私に一声も言わないで勝手に……!!」
「すまない。だが、お前はそこの息子にも気に入られてたらしくてな…」
え……?
そんな人と会った覚えないんだけど。
「美濃のためなんだ…。それに、この国の者達はわしを良く思っていない者もいる。
なら、他の大名と関係がある方がいいんだ」
「………つまり、政略結婚ですか」
「ああ」
帰蝶は落とした書物を拾った。
「母上も、父上との政略結婚だったんですよね……」
「そうよ」
心配していたのだろう。
続いて小見も入って来た。
「わかりました」
帰蝶は一呼吸置いて言った。
「帰蝶……いいのか?」
「はい。私は美濃のため、嫁に行きます」
あくまでも、美濃のため。
こういう道は、女に産まれたために、仕方がない。
娘の私に……そんなの決める権利なんて、無いから。
最初のコメントを投稿しよう!