揚羽の嫁入り

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あの少年と出会ってから数ヶ月。 また、春が来た。 書物を読んでいた帰蝶の元に、紫色の蝶が来る。 「また、帰ってきたのね」 帰蝶は蝶の頭をつんと突つく。 この蝶は、毎年春になると帰って来るのだ。 その時、ガラッと戸が開いた。 「帰蝶」 「父上。どうなさいましたの?」 書物から目を離さずに言う。 部屋の隅には、あの毛皮が掛けてあった。 「嫁に行く気はないか?」 聞きあきた言葉だった。 「またその話……?」 「さっき、お前の結婚が決まった」 帰蝶は書物を落とした。 「決まっ…た……?」 「相手は大名の息子でな。断るにも断るれなかった」 「なんで!?私に一声も言わないで勝手に……!!」 「すまない。だが、お前はそこの息子にも気に入られてたらしくてな…」 え……? そんな人と会った覚えないんだけど。 「美濃のためなんだ…。それに、この国の者達はわしを良く思っていない者もいる。 なら、他の大名と関係がある方がいいんだ」 「………つまり、政略結婚ですか」 「ああ」 帰蝶は落とした書物を拾った。 「母上も、父上との政略結婚だったんですよね……」 「そうよ」 心配していたのだろう。 続いて小見も入って来た。 「わかりました」 帰蝶は一呼吸置いて言った。 「帰蝶……いいのか?」 「はい。私は美濃のため、嫁に行きます」 あくまでも、美濃のため。 こういう道は、女に産まれたために、仕方がない。 娘の私に……そんなの決める権利なんて、無いから。
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