父親

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ゆらりと蝋燭の炎が揺れる。 濃姫は道三が嫁入り前にくれた書物を読んでいた。 今は天文20年(1551)。 彼女が尾張の大うつけと政略結婚してから早二年がたった。 そして、あの日以来信長に小太刀を向ける事は無かった。 まだ、うつけかどうか判断出来なかったのだ。 確かに、立ち振舞いは本当にただの馬鹿者としか思えない。 だけど……… 二年も経ったのに、まだ分かって無い。 16の濃姫には、あまりにも難しい事だった。 「若殿……ッッ!?信長様ーぁ!!」 勢いよく、誰かが引き戸を開けた。 蝋燭の炎が激しく揺れる。 開けたのは厳しそうな、だが何処か間の抜けた老人が、ヒィヒィと息を荒げて立っていた。 「あら。あなたは平手の……」 「信長様の教育係、平手政秀です。信長様は今………」 「あの人は居ませんよ」 「は!?」 「村の青年たちと相撲をしに行くと言ってました」 信長は相撲が大好きで、特技の一つだった。 「こんな時に……うつけ殿は……」 頭を抱える平手。 「一体、どうしたの?」 濃姫が訝しげに言うと、平手はあわあわと言った。 「大殿が……信秀様が、倒れました!!」 「えっ!?」
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