父親

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「すまないな。お濃殿」 布団で横になっている信長の父親、信秀の隣で、濃姫は看病をしていた。 「いいえ。今日はたまたま、専属の医師が居ないのですもの。仕方ないですよ」 濃姫の反対側には平手政秀。 「大殿……大丈夫ですか……?」 平手の問いに、信秀はフンと笑う。 「政秀。わしももう歳じゃ。なにやら病気……にかかっているようでな……。長くは無い」 「義父上様……」 信秀は俯いて座っている家臣の方を向く。 「盛重」 「はいっ!!」 返事をしたのは佐久間盛重だ。 「織田家の後継者は………長男である信長だ。…盛重、信長の手助け……頼んだ」 「はいっ!……必ず!!」 盛重は涙を流して頷いた。 「勝家」 「…はっ!!」 柴田勝家だ。 「勝家、…お前はかなりの剛の持ち主…だ。頼む…織田家を守ってくれ……」 「……はっ!!」 勝家は下唇を噛んで、耐えていた。 段々、息が荒くなっている。 「お濃殿………」 「はい」 「信長は……わしでも本心のわからぬ男…じゃ。 だが……見捨てない…でくれ。 奴はずっと独りだ……今でも独りだ……… お濃殿…、御主だけは………奴の…理解者で……居てくれ………」 「あの人の御側に」 濃姫はゆっくりと頷いた。 信秀は安心したように微笑むと……… 生き絶えた。 「父上〰ッッ!!うわぁぁぁぁぁあ!!」 「殿ッッ!!!大殿ーッッ!!!!!」 「信秀様ぁ~!!!」 次男、信行に続いて、泣き叫ぶ家臣。 周りを気にせずに声を上げて泣く。 「くっ…………!拙者も……殿の側に!!」 森可成は、上半身を脱いで刀を抜いた。 「可成!!そんな事して、殿が喜ぶか!?」 勝家が可成を押さえつけ、止めた。 「く………糞ぉぉぉぉお!!!」 可成が叫ぶ。 森可成は情に熱い男だった。 きっと、良い殿様だったのだろう。 濃姫の頬にも、涙がつたう。 信秀の隣には、声を上げて泣く女性。 正室の土田御前だ。 「義母上様……」 濃姫はそっと寄り添った。 それしか出来なかった。 私は、あの人が死んだら、義母上の様に泣き叫ぶ事が出来るのだろうか………
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