二つの死

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あのゴワゴワした毛皮。 信長は河原に居た。 信長の行動に怒りを感じていた濃姫は、彼の姿が見えるなり、荒げた声で叫んだ。 「信長殿ォ!!」 だが、彼は振り返らない。 濃姫は小太刀の鞘を払って、ズカズカと信長に近付いた。 「この、うつけ者!!愛想が尽きた!!刺し殺して………」 自然と言葉が止まった。 両目の瞳孔が開く。 毛皮に隠れるように縮こまった信長が、微かに震えて居たのだった。 「信……長様………?」 小太刀を下げる。 眉をしかめ、濃姫は信長に近付いた。 泣いてる…………?? あんなことした癖に………。 「貴方、泣いてるの?」 濃姫が顔を覗き込む。 「うるせ。見てんじゃねぇよ!」 信長は、さらに毛皮の中でうずくまり、顔を隠した。 濃姫は、毛の塊みたいな信長の隣に腰掛けた。 「何であんなことしたのよ?」 「……知らねぇよ」 掠れたような、小さな声。 知らないって……… 苦笑する。 今、冷静になって思えば、彼がまともに焼香なんかするはずが無い、って思っていた。 その考えは誰もが持っていたはず。 だから、そんな中でまともにやるなんて……。 「こっぱずかしくて、出来るハズねぇだろ……」 毛皮の中で、独り言のように呟く。 あら、当たってたみたい。 「そうだと思った」 濃姫はフフンと鼻で笑う。 「お濃………やっぱ、俺って………馬鹿野郎だよな………」 毛皮の塊をチラリと見る。 「かなりね」 「………だよな………」 また、毛皮の塊が震える。 濃姫は、片方だけ眉を下げる。 そして、毛皮の塊をそっと撫でた。 「馬鹿のクセに、どこまで不器用なの?貴方は」
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