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毛皮の中で丸まって居る信長を、ちょっと可愛いとか思ってしまった自分に、濃姫は苦笑した。
本当に、こいつは不器用で、本当にやりたい事が出来ない。
うつけ、と言う枠に囚われすぎて、まともな事なんて……
分からない……事も無い、かもしれない。
私だって、大名の娘だから、それなりの身のこなしをしなきゃいけなかったから。
きっと、彼はその人格を突き通そうとしたのだろう。
自分の本心を無視してでも。
それに、まだ周りの人は誰一人彼の正体を知らない。
うつけは、造られた人格だって事。
私しか………知らない。
父親も、平手も。
「それが、貴方の正体なんでしょ」
濃姫は小太刀を懐にしまった。
「今回は私の勝ち、ね」
「……は?」
信長がやっと顔を上げる。
目がうっすらと赤かった。
「ってか目、赤~い!やっぱ泣いてたんじゃない」
「ば………泣いてねぇしっ」
信長がガバッと立ち上がる。
そして、鼻をすすった。
「あのその……あれだ!祭とかの化粧!!能とかもやるじゃん!?」
「………何やってたのよ?」
「ぅ………能ごっこ?」
「嘘つきぃ。泣きましたって言いなよww」
濃姫は小馬鹿にしたような悪戯っ子の笑みを浮かべる。
「やんのかこのーっ!」
信長が飛び掛かってきて、さすがの濃姫も驚いた。
「きゃっ」
避けようと思ったが、遅かった。
信長がガッシリと後ろから抱き締めているような状態になっていた。
それに一番驚いているのは信長自身だ。
「わっ!すまんっ!!てっきり避けるかと………」
信長は、サッと濃姫から手を話す。
これは本音らしい。
耳が真っ赤だ。
「避けようとしたけど………貴方が………」
心臓がバクバクする。
自分も、顔が熱い。
……え?これって………。
無い無い!!私は美濃のために………。
「気持ち悪かった?ごめん」
頬を桃色にして、後ろ頭をかく信長。
「すっごく!!」
濃姫は、自分の表情が悟られないようにさっさと立ち上がった。
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