二つの死

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信長は目を見開いた。 「こりゃ一体………」 盛重は少しためらって言った。 「平手政秀が…………自害しました」 「ぇ………」 濃姫は思わず両手で口を抑える。 信長をチラリと見る。 信長は、手紙をぐしゃぐしゃに握りしめて俯いていた。 どうしてこのうつけには、死の影がつきまとうのだろう。 「………では」 盛重は、暗い顔で一礼し、走り去った。 「信長殿………それには何て………?」 信長は、濃姫の顔を見ずに乱暴に手紙を差し出した。 ぐしゃぐしゃになったそれを、そっと開く。 『信長様へ この度は、勝手に命を絶ち、申し訳ございません。 わたくしも、大殿の後を追います。 この爺は、もうあなた様のお人柄を教育する等、不可能だと実感しました。 どうか、この平手の爺の死を哀れと思って、心を入れ替え、まともになって下さい。 爺は、死んでも、信長様の味方です。 平手政秀』 「死んで、俺を教育しようとしたらしい」 呆れた様な声に、濃姫は思わず信長を見上げる。 「本当のうつけは平手の爺、お前だ………」 「…………信長殿……」 信長が急に濃姫から顔を反らす。 「……爺……爺だけは…分かってくれていると………ずっと思っていた。 だけど違げぇよな………俺の勘違いだ」 どこか寂しげな声。 「俺が遊び呆けてる?………あれも………全て………」 「いつか来る、大革命のため」 濃姫が続けた。 驚いた表情で、信長は濃姫を見た。 濃姫は優しい笑みを浮かべる。 「平手殿が……いや、全ての人が気付いて居なくても、濃は分かってる」
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