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トントン……
戸を叩く音。
濃姫は書物を読むのを止め、ゆっくり立ち上がり、戸のまえで立ち止まると、
「何者ですか」
と、問うた。
「わたくしは、尾張守護、斯波義統と申す者でございます。信長様は居られますか……?」
義統という、40後半ぐらいの男は、歯を食いしばっている。
何故だろう、とか思いながらも、濃姫は寝そべって何度も指先と足先をくっけようとしている馬鹿に声をかけた。
「信長殿、斯波義統というお方が来ておりますよ」
信長の足の指を摘まみながら言った。
「あてっ……わかった!義統、入れ!」
濃姫が摘まんだ足指を、軽くさすりながら手招きする。
義統は、遠慮がちに辺りを見回し、入ってきた。
念入りに外を見て、戸を閉める。
「あらよっと………何の用だ?」
ぐりんと起き上がり、義統を見つめる信長。
義統は下唇を噛む。
その光景に不信感を抱いた濃姫は、義統の後ろの方へ座った。
懐の小太刀を握り締めて。
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