美濃に舞う蝶

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「オギャアー!!」 数週間経った日の朝だった。 稲葉山城は騒がしかった。 「小見!!小見!!産まれたのか!?!」 横たわる小見の周りには、長男義龍、爺、医師、忠臣三名、女中六人。 道三は慌てながら、一番最後にやってきた。 「可愛い女の子ですよ」 医師は言う。 小見は疲れはてた、だが満面の笑みで赤子を道三に渡す。 「見て、凄くかわいい子」 「えー。真っ赤でシワシワじゃん」 今年元服したばかりの、10歳の長男、義龍が鼻で笑う。 「生まれたては皆こういうもんだ義龍。お前だって、こんな時期があったんだぞ?」 「うへぇーマジかよ」 その時、スッと窓から紫色の蝶が入って来た。 美しい羽をふわりと振るう。 皆の目は、無意識に蝶へ行った。 蝶はそんなの気にせずに、ふわりと赤子の頭に止まり、またひらりと小見の指先に止まった。 「帰って来た。あの時の蝶が………」 笑みを浮かべる小見。 「きっと、祝福にきたんだよ」 柄に会わないことを道三が言う。 それを聞いて、小見も頷く。 「ありがとう。可愛いお前」 蝶はひらりと羽を開くと、また何処かへ飛んで行く。 「小見、この娘の名前、思い付いた」 「あら?前に言ってませんでしたっけ……おなごなら、『お濃』美濃国の高貴な女性と言う意味で………」 「その名はこの娘が、成人してから名乗ればよい」 道三が言う。 「高貴な女、なんてまだ早いだろう?」 そう付け足して笑みを浮かべる。 「帰蝶だ」 「……え?」 「帰る蝶で帰蝶。さっきの蝶のように、自由に美しく生きて欲しい」 「帰蝶……良い名前」 小見がそっと、赤子の帰蝶の頭を撫でる。 「美しく生きよ、帰蝶」
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