うつけと蝶

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天文18年(1549)の冬。 美濃は雪景色だった。 奥州ほどではないが、うっすらと積っている。 その中を、一人で歩く美しい少女。 今年で14歳になる帰蝶だ。 今は正月真っ盛りで、美濃の屋敷の主らや、あちらこちらから大名が挨拶をしにやって来る。 そこで、道三は帰蝶を嫁にやり、さらに勢力を広げようとして、相手が帰蝶を気に入ってくれるように彼女を自分の隣に座らせていた。 だけど帰蝶は嫌だった。 知らないおじさんのお嫁になんかなりたくない。 屋敷の主のおじさんや大名らは、彼女の顔を覗き込んでは、 「美しい娘さんだ」 と、誉めたて、自分の息子の嫁にどうだ、等と言う。 まあ、自分が女に生まれてしまったから、仕方ないけど………。 だから帰蝶は、そっと城から抜け出してきたのだった。 帰蝶は雪を両手で掬う。 「……冷たっっ…」 よく考えると、こうして雪を直に触るのは初めてだった。 霜焼けになってはいけないと、いつも分厚い手袋をさせられて。 不意に風が吹いて、粉雪が舞う。 「……綺麗」
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