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大輪に咲く花びらが、ひらひらと宙を舞った。
傍の河川に落ちて、下流へと流れていく。
まだ太陽は目覚めたばかり。
朝日は、優しく辺りを照らしていた。
暖かさを意識して、それ以上に暖かい、結んだ左手に心拍数が上がる。
隣に添っている彼女を見ると、満面の笑みが花開いている。
連れてきてよかった。
素直にそう思えた。
どうってことない街中の、河川敷のこと。
東洋の国からきた『サクラ』という木は、桃色の花を咲かせる綺麗な樹木だった。
二人は適当な草原に腰を下ろし、持参したバスケットを開ける。
中身は、色とりどりのサンドイッチだ。
よだれを垂らしながらさっそくつまもうとして、伸ばした手の甲を叩かれる。
「ダメでしょ! キリ」
「いてっ! なんだよ!?」
一撃は思いの外重い。具体的には、痺れている。
「こういうことはレディーファースト。先にいただくわ」
レディーかよっ! そうキリは突っ込みたかったが、ぐっと堪えた。
力こそは男だが、透けるような長い金髪に澄んだ碧眼。幼いながらに整った顔立ちは、紛れもなく美人だからだ。
一瞬の考慮の間に、膝元に置いたバスケットがひょいっと、遠くに掠われる。
キリが彼女を誘うと言ったら、気前よく母が作ってくれた昼食だった。
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