ある日あの時

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それでも「おいしい」とはにかむ彼女の表情に、許せてしまう自分がいる。 「なあ、ルイ」 「ん?」 小首を傾げる仕草に、心臓が高鳴る。 振り仰ぐ空は、どこまでも青い。 「オレは、いつかこの空を飛んでみせる」 「ふ~ん」 「本当だぜ。こんな片田舎にだって、いつか鉄の鳥が空を滑空する日が来る」 一羽の鳥が、悠然と頭上を通過した。力強く羽ばたく翼。 「オレが機械いじるの好きなのは知ってるだろ? だから、絶対に飛ばしてみせる」 それはもっと小さな頃からの夢だった。 大人達はばかにして、取り合おうとはしないけど、いつか……。 「だから、そのときは――」 ――オレと結婚してほしい。 あとは続かず飲み込んだ。 これはきっと、まだ早い。 だからせめて、 「この桜が春に咲いたら、また一緒にお花見しよう」 斜に構えて指さした木は、すでに枯れ落ち、新しいつぼみをつけていた。 このサクラだけは、品種も同じだというのに毎年冬場に咲いてしまうのだ。『クルイザクラ』というらしいが、全部が一斉に咲き誇る姿が見られないのは残念だった。 「いいよ」 ぞんざいに呟く様はキリを落胆させたが、肯定の返事には心踊る。 「それじゃ、そろそろ帰ろうか」 重い腰を上げて、キリが言った。 片手にはバスケットを持ち、もう片方はルイを助け起こそうと差し延べる。
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