41人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも「おいしい」とはにかむ彼女の表情に、許せてしまう自分がいる。
「なあ、ルイ」
「ん?」
小首を傾げる仕草に、心臓が高鳴る。
振り仰ぐ空は、どこまでも青い。
「オレは、いつかこの空を飛んでみせる」
「ふ~ん」
「本当だぜ。こんな片田舎にだって、いつか鉄の鳥が空を滑空する日が来る」
一羽の鳥が、悠然と頭上を通過した。力強く羽ばたく翼。
「オレが機械いじるの好きなのは知ってるだろ? だから、絶対に飛ばしてみせる」
それはもっと小さな頃からの夢だった。
大人達はばかにして、取り合おうとはしないけど、いつか……。
「だから、そのときは――」
――オレと結婚してほしい。
あとは続かず飲み込んだ。
これはきっと、まだ早い。
だからせめて、
「この桜が春に咲いたら、また一緒にお花見しよう」
斜に構えて指さした木は、すでに枯れ落ち、新しいつぼみをつけていた。
このサクラだけは、品種も同じだというのに毎年冬場に咲いてしまうのだ。『クルイザクラ』というらしいが、全部が一斉に咲き誇る姿が見られないのは残念だった。
「いいよ」
ぞんざいに呟く様はキリを落胆させたが、肯定の返事には心踊る。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
重い腰を上げて、キリが言った。
片手にはバスケットを持ち、もう片方はルイを助け起こそうと差し延べる。
最初のコメントを投稿しよう!