-始-

10/43
前へ
/66ページ
次へ
一方紅はというと、瀬戸内海が見渡せる少し小高い山に生えてる松の木の下にいた。 「やはり、あっちとこっちでは味が違うな」 言いながら、好物の魚の目を美味しそうに頬張っている。 満足したのか空を見上げ、ふうっと、一つため息を吐くと面倒くさそうに松の木の根元に近寄り、溶けるように消えた。 すると今度は、違う場所へと移動する。 紅は人間の姿をしているが、実は妖である。 妖になる前は神であったが、ある事情によりその地位を剥奪された。 でも、妖になってしまったらなってしまったでこちらの方が楽だと、フラついていたら樹の両親…… 秋月夫妻に出会ったのだ。 紅は自分によくしてくれる夫妻に気を許し、のんびりと暮らしていた。 そんなある日、頼まれ事をされ東京に住む《兄弟》の元へ行ったのだ。 今にして思えば、引き受けなければよかったと後悔しても遅い。   松阪城にある松の木の根本に姿を現し、そこから見下ろすと樹の両親が住む神宮が見える。 紅はぶつくさと文句を言いながら歩いて神宮へ向かった。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加