10人が本棚に入れています
本棚に追加
一時、陽が落ちれば辺りは闇に包まれる。
ガス灯が普及したとはいえ、行灯やランプがないと歩けないほど暗い。
辺りは早々に灯りを消し、寝静まっている。
こんな時間に出歩くものなど、ほとんどいないのだ。
男は帰路を急いでいた。
つい仲間と話が盛り上がり、すっかり時が経つのを忘れていたのである。
お酒が入ってほろ酔いとはいえ、こうも静かで人気がないと、不気味さで酔いも冷めるというものだ。
手元の小さなランプの灯りだけでは、心もとないのも仕方がない。
遠くからガラガラガラと、車の走る音が聞こえてくる。
男ははじめ、こんな時間に馬車かと不審に思い足を止めたが、良く耳を澄ますと車輪が駆けてくる音しか聞こえない。馬の足音がしないのだ。
ゴクリと唾を飲み込み、男は目の前の闇に目をこらす。
音は確実に、男の方に向かって近づいていた。
闇にポッと灯りが浮かぶ。
見えたと男が思った次の瞬間、灯りは一気に膨れ上がり巨大な炎の塊となり、男の目の前に止まった。
最初のコメントを投稿しよう!