-始-

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一時、陽が落ちれば辺りは闇に包まれる。   ガス灯が普及したとはいえ、行灯やランプがないと歩けないほど暗い。 辺りは早々に灯りを消し、寝静まっている。 こんな時間に出歩くものなど、ほとんどいないのだ。   男は帰路を急いでいた。 つい仲間と話が盛り上がり、すっかり時が経つのを忘れていたのである。   お酒が入ってほろ酔いとはいえ、こうも静かで人気がないと、不気味さで酔いも冷めるというものだ。 手元の小さなランプの灯りだけでは、心もとないのも仕方がない。   遠くからガラガラガラと、車の走る音が聞こえてくる。   男ははじめ、こんな時間に馬車かと不審に思い足を止めたが、良く耳を澄ますと車輪が駆けてくる音しか聞こえない。馬の足音がしないのだ。   ゴクリと唾を飲み込み、男は目の前の闇に目をこらす。 音は確実に、男の方に向かって近づいていた。   闇にポッと灯りが浮かぶ。   見えたと男が思った次の瞬間、灯りは一気に膨れ上がり巨大な炎の塊となり、男の目の前に止まった。
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