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炎に包まれた牛車だ。
牛車とはいえ、車を引くべき牛の姿はなく車輪は一つしかない。そのうえ、炎に包まれているのだ。明らかに異様な光景としか言い表しようがない。
男はまだ酔っているのではないかと願いながらも、その場から動けずにいた。
ゆっくりと、牛車の小窓が開く。
中から顔を覗かせたのは、平安絵巻の中から出てきたかと見まごうような美しい女だった。
女は軽く目を細めるように笑みを浮かべると、男を招くかのようにゆるり手を揺らす。
たちまち男の心は女に奪われた。先ほどまでの恐怖が消え去り、牛車に近寄っていく。
男は招かれるまま、フラフラと牛車に乗り込んだ。
女の顔に満足そうな笑みが浮かぶ。ぞっとするほど、美しい笑みだった。
炎が一段と激しく燃え上がり、牛車が勢い良く走り出した。
牛車が闇の中に姿を消し、辺りが再び静まり返る。
後には、男の持っていたランプが転がっているだけだった。
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