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台所では鼻歌まじりに洗い終わった食器を拭いている鷹彦がいる。
紅は鷹彦の背後に立つと声を掛ける。
「鷹彦」
陶器が割れる音が響く。
声にビックリして、何かを割ったらしくしまったという顔つきで振り返った。
それに慌てて近づいたのは樹だ。
「紅、なんてことするんだよ!鷹兄大丈夫?!」
「ワシ何もしてない。鷹彦が悪いのじゃ」
紅の言い分は合っているのだが、そんなの関係ないと鷹彦の足元に座り込み、割れた食器を拾いながら樹は紅を睨む。
そんな樹を見て鷹彦もその場に座り、破片を拾い始めた。
「樹、ここは危ないですからいいですよ。それよりお掃除はどうしたのですか?」
優しい口調だが、目は笑っていない。
その視線に樹は耐えられずに紅に無理やり連れてこられた。と、紅に視線を送りながら鷹彦に言う。
紅はやれやれ。と、肩をすぼめ、樹の首を指差しながら言った。
「鷹彦、こやつの首を触ってみぃ。熱いじゃろ? 何を意味しているか、わかるじゃろ?」
鷹彦は言われた通りに樹の首を触れ、表情を固くした。
鷹彦の表情に、樹が閉じ込めようとしていた不安が一気に溢れだす。
「鷹兄……?」
樹は覗き込むようにして、鷹彦に問い掛ける。
鷹彦はすぐに優しい笑顔になり、樹の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ。樹は気にしないでお掃除をしてください」
そう言って心配している樹をよそに、掃除に戻る様に促しながら紅に目配せをする。
紅はそれに頷き、樹と共に台所を後にした。
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