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一人、また一人と桟橋を渡り乗客が降りてくる。秋月鷹彦もその列に混ざるようにして、土を踏んだ。
鷹彦は目を細め、眼鏡を軽く指で押し上げた。短い黒髪を潮風が撫でていく。その表情は、何かを危惧するように固い。
「鷹兄、お帰りなさい」
元気な声と共に、樹は子供のように鷹彦に飛びついた。
鷹彦は驚いたように樹を受け止め、笑みを浮かべ頭を軽く撫でる。
「樹、良い子にしてましたか?」
「もう、子供扱いするんだから。僕はもう十五、大人だよ」
樹は軽く頬を膨らますようにして鷹彦から、離れ胸をはった。そういう仕草が子供っぽく見えるのだと、紅は密かに呟く。
樹の鋭い視線が刺さるが、紅は軽く肩をすくめただけでとぼけている。
確かに元服は十五だったが、そういう意味ではないのだ。微かに浮かんだ表情のかげりを隠すかのように鷹彦は微笑む。
「……そうですね。樹は大人です。さぁ、暗くならないうちに帰りましょう」
「はーい」
兄の言葉に樹は嬉しそうに顔を綻ばせ、並んで歩き始めた。
紅は目を細め興味深そうに、そんな二人のやりとりを見上げながらゆっくりと後についた。
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