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樹と紅の戯れを鷹彦は優しく見つめながら歩いていたが、空の端が青から黄色に変わっているのを見て顔を固くした。
「樹、急ぎましょう。逢魔が時がきてしまいます。人の顔の判別が難しい曖昧さを狙って人ならざるものが人に紛れて出る時刻です。それに樹は……」
「わかってるよ。鷹兄。僕はあまり外には出ちゃいけないんでしょ」
樹は少しだけ辛そうな表情を浮かべたが、すぐに仕方の無い事なのだと自分にいいきかせ、なんでもないような顔を作って真っ直ぐ前を見据えた。
空に橙色が差し込もうとしている中三人は駆け出した。
「めずらしい人がいるものよのぅ。妖を連れておる」
人々の合間をぬって家路へ急ぐ樹の耳に言葉が飛び込んできた。
足を止め振り返ってみたが、声の主はわからない。
「樹、何をしているんですか?急ぎますよ」
鷹彦からせかされて、樹は気のせいかと首を振る。
それに紅が何も言わないので、気にするものではないと考え走り出した。
黒い小さな影が樹の後を誰にも気付かれずついていく。
樹に追いつくと影は足から這い上がり、背中を通って首にたどりつくとそこにべたりと張り付いた。
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