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扉には鍵はかかっていない。(尤も、営業中の店ならば当然であるが)
どうやら鉄製らしい扉は、見た目に反して呆気ない程軽かった。
軽やかな音で扉の上部に付けられた鉄鈴が歌う。
呼び鈴代わりなのだろう。
扉も西洋風の洒落た物だったので喫茶店みたいだと思った。
「―――…お待ちしておりました!」
いきなりかけられた大声にびくっと首を竦めると、声の主はバツの悪そうに頭を掻いた。
「あ、ゴメン」
顔を上げると、声の主であろう少年は入口の正面に据えられたカウンターの中に立っている。
留置庵、と書かれたブルーアッシュのエプロンを付けた少年は、照れたように苦笑して、朝陽に向かって頭を下げた。
「新旧書房【留置庵(るちあん)】へようこそ」
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