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「何よ」
二度、三度と繰り返しじだんだを踏んでいたら、どこかへ行っていた理性が急激に帰って来た。
ただ、悔しいのか悲しいのか解らない不愉快な感情は出ては行かなかった。
「…何よ」
鼻がつんと痛くなって、頭の変わりに目頭が熱くなった。
泣くのは彼女のタブーだったので、代わりに唇を噛む。
頭の中で、小さい頃によく聞かされた言葉が蘇った。
―――…しっかりしなさい、朝陽はお姉ちゃんなんだから。
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。
泣くのを堪える為に反芻した言葉だというのに、今のこの状況ほど相応しくない言葉は無かった。
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