The night

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   犬は、ふるふると首を横に振った。髪についた雪を払い落とし、汚れたままの掌を軽く握り締める。  ほんの数分のあいだにも雪の勢いはますます強くなっていった。しかしそれは今までと違って犬を優しく包み込み、そのまま真っ白で冷たい褥に寝かせようとするかのようだった。もしこのまま立ち尽くしていれば、いつかこの身体もこの景色の一部となって消えていくのだろうか。  犬は、再び走りだした。雪の甘い誘惑を振りほどこうと、ただ前だけを向いて走り続ける。  モノクロの世界を駆け抜ける一匹の猟犬の首で、鈍色の鎖が重たく揺れた。  
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