A Hound

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  「ハウンド。今一度、お前を厳しくしつけ直さなきゃダメみたいだなァ」  パーカーの襟から喉元へと滑るボスの指を目で追う。次に何をされるか予想がついていながら、ハウンドは身じろぎひとつできなかった。 「言ってきかない動物には、身をもって分からせてやろう」  鉄の鎖が、素早く首に巻きつく。ボスが鎖の端を引くと、ハウンドの首はいっそうきつく絞めあげられた。話すどころか呻き声すらろくに出ない。気管が潰れ、息が詰まる。耐え難い苦しさに、ハウンドは痺れ始めた手で思わずボスの腕を掴んだ。 「苦しいか? なあハウンド、お前、自由が欲しいか? え?」  ボスが意地悪く笑う。が、既に意識が薄れつつあるハウンドの視界に、それははっきりとは映らなかった。 「やってもいいぞ、自由なんぞくれてやる。だがなハウンド、この首輪を取ってみろ――そうしたらお前はただの卑しい野犬だ! 手当たり次第に飛びかかり、噛み付き、食い千切る――!」  叫ぶと、ボスはハウンドを勢い良く突き飛ばした。やっと解放されたものの、しかし朦朧として四肢に力が入らないハウンドは、よろよろと床に崩れ落ちる。久々に空気がどっと肺へ押し寄せ、呼吸が追いつかずに激しく咳き込む。咳き込みすぎて、胃の中のものを戻した。とはいえ腹にたいしたものは入っておらず、酸味の濃縮された胃液のみが新聞の紙面を汚した。 「血に飢えた獣――そんなに本来の姿に戻りたきゃ、好きにするといい」  しかし、とボスは続けた。 「おれのもとにいる限り、お前は立派な『猟犬』だ。ちゃんと餌も寝床も与えられる――任務に忠実でありさえすればな」  諭すように言い、再び「首輪」に指を添える。 「その哀れな脳みそにようく叩き込むんだな。選択肢は、そう多くはないってことを」 「……イエス、ボス」  ハウンドは持てる気力を振り絞って返事をした。ボスが「良い子だ」と満足そうに口角を上げ、その指が何事もなく鎖から離れていっても、助かったのだという実感はなかなかわかなかった。  
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