A Hound

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   ――ボス。  まるでこちらの会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、天井のスピーカーがボスを呼んだ。 「なんだ」  ――先ほど、屋敷にリンダ様がお見えになりました。  リンダという名前に、ボスが明らかな反応を示す。 「なに、リンダが。それで、どこにいる」  ――全てのセキュリティをパスしたので、メインリビングにお通ししてあります。 「よし、ここに連れてこい。今すぐにだ」  ――イエス、ボス。  スピーカーが静かになってから数分後、ハイヒールの踵を高らかに鳴らしながら、白い毛皮のコートをまとった女が部屋にやって来た。 「やァ、ハニー」 「ダーリン、会いたかったわ」  ボスは両手を広げて女を迎え、女は踊るような足取りでその胸に飛び込んだ。二人の抱擁はやがてキスに発展し、互いに相手の腰や尻を撫でながら舌を絡ませる。人目をはばかる様子など皆無だったが、そもそも今ここに彼ら以外の人間はおそらくいなかった。いたのは、きっと一匹の犬だけ。  情熱的な対面を終えたのち、女――リンダはくるりと振り返った。 「あら、ワンちゃん。お元気?」  リンダはコートと揃いの白いファーがついたバッグを漁る。 「さっきね、表通りのショッピングモールでキャンディを配っていたの。あなたにあげるわ」  紙包みを剥がし、桃色のキャンディをハウンドの口に寄せる。 「はい、あ――」  ん、とリンダが言い切る前に、ハウンドは彼女の手を振り払った。キャンディが宙を舞い、あっけなく地に落ちる。 「……あらあら、ご主人様以外の手からは餌を貰わないのね。きっとよくしつけられてるんだわ」  独り言のように呟き、リンダはボスのほうへ向き直った。その拍子に、赤いハイヒールの爪先が叩き落とされたキャンディを蹴った。キャンディはころころと転がり壁にぶつかる。リンダはそ知らぬ顔をしていた。  
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