A Hound

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  「嫌だわ、もうこんな時間」  ダイヤの輝く腕時計にぱっと目をやって、リンダが言った。 「ごめんなさい、ダーリン。わたし、これからエステサロンの予約が入っているの」 「何か話があったんじゃないのか」 「たまたま近くを通りかかったから、寄ってみただけよ。でも、会えて良かったわ」  これもただの嘘っぱちだろうとハウンドは思った。リンダはプレゼントの注文をしに、わざわざやって来たに違いない。いくらボスといえども、島一つ買い上げるにはそれなりの時間が要る。つまりリンダは最初から「小さな別荘」を貰うつもりなどないのだ。 「予約に遅刻すると悪いから、もう行くわ」 「またいつでも来るといい」 「ええ。それじゃあね、ダーリン。クリスマスの日を楽しみにしてるわ」  リンダは渡された花を手にボスと別れのキスを交わし、それから 「ご主人様の言うことは、ちゃんと聞くのよ。いいこと?」  とハウンドに言い残して去っていった。 「……というわけだ」  リンダが去り、ボスは空になった花瓶を弄びながらソファに寄りかかる。その顔はもう「恋人」から「飼い主」へと戻っていた。 「おれは、プレゼントの準備やホテルの手配で忙しい。なのに、まだ厄介な用事が片付いていない――どこぞの馬鹿犬のせいでな」  憎々しげに吐き捨てるボス。ハウンドは顔面めがけて飛んできた花瓶をとっさの判断でかわしたが、暖炉の角に衝突して派手に砕け散ったガラスの破片が腕に一筋の傷をつけた。  
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