A Hound

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  「勘違いするなよ、ハウンド。おれは天使も驚くほど慈悲深い男だ。……お前にもう一度チャンスをやろうじゃないか」  こちらへ歩いてくると、ハウンドの顎に指をかけてくいっと上を向かせる。 「二十四日――イヴの、午後五時だ。それまでに、なんとしても例のものを持ってこい。持ってこなかったら……分かるな」  脇腹に、何か硬いものの感触がした。ハウンドは直ちにその正体を理解する。  銃口、だ。 「おれをがっかりさせないでくれよ、ハウンド。――さあ、行け!」  ボスに命令されるやいなや、ハウンドは弾かれたように部屋を飛び出した。  我ながら情けないほど素早い反応だった。フリスビーを投げて〝Go.〟と叫ぶ飼い主、それを追いかけて走りだす犬――そんな公園のワンシーンと、寸分違わない。かろうじて違うのは、犬が振るべき尾を持たないところか。その点においては、むしろリンダのほうが「犬」であるとも言える。……にもかかわらず、想像の中でフリスビーを投げているのはなぜか彼女だった。――「ワンちゃん、取っておいで」。  ハウンドはもと来た廊下を一直線に走って引き返す。絵画の女も、台座に鎮座する壺も、静かにそれを見送っていた。  しかし、彼らは口を揃える。  ――「ワンちゃん、取っておいで」。  
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