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屋敷を出たハウンドは、とりあえずその辺のチンピラを適当に捕まえて身ぐるみを剥ぎ、血塗れの服を着替えた。それと腹が減っていたので、服を引ん剥いたついでに巻き上げた端金を手に表通りへ向かった。
「何になさいますか」
「メニューの一番上にあるやつで」
こちらの受け答えに眉を寄せながら、店員は気だるそうにレジを打つ。目深に被ったフードから少し顔を覗かせて、傍に置いてあった卓上カレンダーを見た。二十日だった。
「釣りはいらない」
店員が金額を告げる前にカウンターへ無造作に硬貨を置き、出されたハンバーガーを掴んで逃げるように店を去る。店先から一歩入った路地裏で、早々に包み紙を丸めて捨てた。実に数日ぶりの食事だったが、美味くもなんともなかった。
身繕いと腹ごしらえを済ませたハウンドは、次に昨夜の熾烈な逃走劇の舞台――廃ビル群へと足を運んだ。
辺りに人気はなく、一帯は閑散としていた。左右には閉められたシャッターが列し、「テナント募集」の色褪せた貼り紙が虚しく風にそよぐ横で、奇抜な落書きが意味不明な主張をしている。歩道には、ガラスの破片。数羽のカラスが、ギャアギャアと頭上を飛んでいく。
かつて、ここには多くのマンションや雑居ビル、デパートといった様々な高層建築が立ち並び、街の主要な一画をなしていたらしい。が、表通りの開発が進み、何年か前に新しくショッピングモールができた頃から様子が変わった。人がどんどん表通りのほうへ流れ、繁栄の中心地はあちらへ移り、ここはあっというまに廃れていった――というのは、誰から聞いた話だったろうか。
とにかく、以来ここらは完全に放棄された……はずだった。少なくとも「表」の人間からは見放されたが、デカダンスは同じように社会から排斥された輩を惹きつけた。それから、いつしか廃墟は無法者の寝ぐらと化したのだった。
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