第一章

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 暖かな朝陽が昇り始め、皆が疎らに起き始めた頃。  辺りには鶏の声や小鳥達の囀りが響き渡り、何とも言えない澄んだ空気が充満している。  その事を皮切りにまた平和で新しい朝がやってきたという事を、世間の人々に知らせていく。  しかし、そんな朝の爽やかな雰囲気を全てぶち壊すかの様に、邸内に慌ただしい空気が流れ込む。  それを表すかの様に大きな足音をたてながら廊下を走る一人の男。  その男は迷う事なく廊下を進んでいき、ある部屋を目指していく。  そして、目的の部屋へと辿り着いた男は間髪入れずに、その部屋の襖を勢い良く開け放つ。  その部屋の中心には布団が一つ敷かれており、一人の少女が未だに夢の中を微睡んでいた。  少女は襖を背にする様に眠っていて、布団を頭まで被って気持ち良さそうに寝息を起てている。  その姿を男が無事確認すると、何処か楽しそうな笑みを口元に浮かばせる。  そんなだらしない表情を浮かべながら、男は軽くその場で跳躍してみせる。  そして、奇妙な言葉を口走りながら、男はそのままその布団目掛けて飛び込んでいく。 「ひーめー!」  男は迷う事なく布団に向かっていき、少女を抱き締める様にして勢いで飛び込む。  しかし、先程までそこに居た筈の少女の姿は、その時点では既に姿を消していた。  そうやって腕を交差して少女の温もりを男は探すものの、実感するのはまだ温かみの残る布団だけ。  その事を不思議に思ったのか、男は不意に布団から顔を上げる。  すると、顔を上げた男の視界にちょうど何者かの足が映り、男は恐る恐る顔を上げていく。  そこには何時の間にか起き上がっていた少女がおり、鞘に納まった刀身を思い切り振り被っているところだった。  そして、男が引き攣った顔で口を開くよりも先に、少女はその刀身で男の顔面を思い切り横殴りにする。  その瞬間、殴られた反動で男は庭まで勢い良く吹き飛ばされていってしまう。 「ぎゃあー!!」  庭先へと吹き飛ばされた男は激しくその場でのた打ち回りながら、苦悶の叫び声を上げてる。  暫くそのまま男は悶絶を続け、その場で何時までもと転げ回っていた。  一方、男が殴り飛ばされた時に部屋の襖は派手に破壊されており、部屋と廊下を隔てるものが何もなくなっている。  そこからフラリフラリと一つの人影が現れ、朝陽の元へその人物は姿を現す。
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