ACT3. 絶望の果てに生まれる嫉妬

3/8
前へ
/79ページ
次へ
 それから一時間余り。  事故死だからと、アニキの遺体は解剖に回され、すぐには葬式も通夜も出来なかった。俺はアニキの勤める会社に連絡を入れ、アニキが事故で死んだ事を伝えた。黙ったまま一言も口を利かない佐緒里さんを、とりあえず一緒に家に連れて帰った。  お互いに、一人で居ると気が狂いそうだったから。  アニキが突然居なくなったなんて現実を、受け止められる筈も無かった。  二人で家に入り、リビングにとりあえず佐緒里さんを座らせた。  彼女は、あれから一言も口を利かない。  俺は、黙って珈琲を淹れた。アニキが死んだなんて、どうしても思えなかった。 夢であってくれたら、って。  この珈琲を飲めば、絶対にアニキが帰ってくる――そんな気がしたから。  淹れ立ての珈琲を持って、佐緒里さんの前に置いた。「ちょっと、飲まない?」  珈琲なんて飲む気分じゃないだろうけど、少しでも現実から逃げ出したかった。  佐緒里さんは虚ろな瞳のまま、俺が手渡したアニキが愛用していたカップに目をむけ、反応を見せる。「コレは――」  雅之さん、と呟いて、彼女が俺の淹れた珈琲に口を付ける。「違う・・・・」  違う、違う、と何度も呟いては、首を振る。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5077人が本棚に入れています
本棚に追加