ACT3. 絶望の果てに生まれる嫉妬

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 俺も一口珈琲を飲んでみた。  見よう見まねで珈琲を淹れてみたものの、アニキが何時も淹れてくれるあの美味しい珈琲では無かった。  全然別物の、全く違う飲み物だった。  この世にもう、アニキは居ないのだと思い知らせるかのような――そんな苦い味だった。 「ねえ、誠クン」  生気の無い瞳を向けて、佐緒里さんが俺の方を向き直る。「雅之さんの部屋、ドコ?」 「あ、ああ・・・・2階の、突き当りの部屋・・・・」 「行ってもイイ?」 「いいよ」  佐緒里さんは、よろよろとアニキの部屋の方に行ってしまった。  リビングに残った俺は、苦い珈琲を飲み干した。  さっき佐緒里さんと一緒に飲んだ、あのホテルの珈琲より不味かった。 「アニキ・・・・」  俺、コレからどうしたら良いんだよ。  この世にたった一人になっちまったんだ。  この現実に耐え切れない。  涙が溢れて溢れて、止まらない。  こんなにこの狭い家が――いや、二人で住むには十分広い贅沢な家が、この世界から隔離されて取り残されたような気がして。  アニキのお陰で成り立っていた生活も、楽しい日々も、全て失くしてしまったんだな。  俺は、どうしたら良いんだ。
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