ACT3. 絶望の果てに生まれる嫉妬

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 いや、それも全然違うな。敵わない。  俺は、貴女を好きになってから、まだたったの数時間しか経ってない。  貴女がどんなオンナかも知らないし、好きな食べ物も知らなければ、どんな風に抱いたら悦ぶかなんて事も知らない。 「雅之さん・・・・ねぇ、今日は遅かったけど、どうしたの?」 「佐緒里さん・・・・」 「どうして佐緒里さん、何て言うの? 何時もみたいに、佐緒里って呼んでよ、雅之さん」  彼女の虚ろな瞳で見せる笑顔は、今にも壊れそうだった。  何度も俺の事を『雅之さん』という彼女の言葉に、俺の心も限界だった。 「佐緒里さん、しっかりしろよ! アニキは、アニキはもう・・・・」  この世に居ないんだ。  何処を探しても、もう、何処にも。 「雅之さん・・・・イヤよ・・・・行かないで。私を、置いて行かないで・・・・」  私達、これからだったじゃない。  まだ何もしてない。  もっと一緒に居るって、コレからはずっと一緒だって――  約束、したのに。  そう言って、彼女はまた、アニキの名を呼んだ。  何度も彼女の唇から、アニキの名前が零れる度に、何かが歪んで行った。  そして遂に、何かが俺の中で音を立てて崩れ去った。   
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