ACT4. 夢は覚め、罪深き現実が訪れる

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 彼女がこの家を去ってから、今度は彼女に何時逢えるだろうか――そんな不謹慎な事を考えてしまうのだった。  もう、二度と逢っては貰えないだろうけど。  俺なんかには、もう逢いたくない筈だ。  ましてや、この腕に抱く事なんて、無理に決まってる。  それに俺は今、佐緒里さんの事を考えている時間なんて無いのに。  アニキの葬式の準備なんかをしなくちゃいけない。  俺はもう一度キッチンに立って、珈琲を淹れた。アニキが何時も俺の為に淹れてくれる、あの美味しい珈琲が飲みたかったから。  出来上がった珈琲を口にしてみると、不愉快な味が口いっぱいに広がる。たまらず、キッチンのシンクに珈琲を吐き出した。  もう、あの珈琲は二度と飲めないのだ。  また、寂しさが心を支配した。  俺は自ら罪を犯して、アニキの最愛――俺にとっても最愛の女性を傷つけてしまったんだ。
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