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完全に吸血鬼になっているものからすれば赤子に等しいのかもしれない。両親の亡骸は頭は粉々に破壊され、壁に杭で胸を打ち付けられ、四肢は引き裂かれ千切られていた。
両親の無惨な姿を思い浮かべ、冷静に振る舞っていた瞳に強い憎しみが宿り、拳には自然と力が込められた。
「私はあの時から誓った…せめて両親の負った痛みや苦しみを貴方にも味あわせられるのならと…」
彼女は心の中に渦巻く感情を表に出さず、落ち着き払った声で言う…。
「これが私の背負った10年間の苦しみ…貴方にはわからない、わかる筈がない!!」
黒衣の男の間合いに入り、自分の背中へと右手を回す。その手には鈍く光を放つ金属製の短剣が握られていた。
ドンッ!!!
娘の握る短剣が黒衣の男に深く突き刺さる。手を通して感じるのは肉を貫く抵抗。それとほぼ同時に腹部に感じる違和感。火傷をしたような熱を帯びた痛み…。口の中に広がる鉄くさい味…。
「聖銀の短剣とは中々面白いことを考える…だが、今一つ足りないものがある…残念なことだ…」
娘の腹部を抉るようにして刺し貫いていたのは、黒衣の男の左腕だった。
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